『金色のガッシュ!! 完全版』刊行記念。雷句誠氏 独占インタビュー

7月27日(土)、紙書籍版の『金色のガッシュ!! 完全版』(クラーケンコミックス)の刊行開始を記念して、作者である雷句誠先生のトークショー&サイン会が開催されました。今回の紙書籍版刊行は「ずっとガッシュを好きでいてくれた読者に恩返ししたい」という雷句氏の強い思いにより実現したもの。その言葉のとおり、会場には、年齢、性別を超えて、雷句氏の熱烈なファンが集まりました。
そしていよいよ独占インタビュー。長時間にわたるトークショー、サイン会の疲れも見せず、編集部の質問に対して、一つひとつ慎重に言葉を選びながら真摯に答えてくれる雷句氏の姿と、『金色のガッシュ!!』のテーマである「やさしい王様」が重なりました。

雷句誠(らいく・まこと)
岐阜県出身。『金色のガッシュ!!』で第48回小学館漫画賞少年部門受賞、『どうぶつの国』で第37回講談社漫画賞児童部門受賞。その他作品に『VECTOR BALL』などがある。

読者が「ホッと息抜きできる」場面を作ることを常に意識

ファン待望の紙書籍版『金色のガッシュ!! 完全版』の発売、おめでとうございます。7月22日に発売された第1巻、第2巻がすでに3刷とか。ものすごい反響ですね。

ありがとうございます! とてもうれしいです。

『金色のガッシュ!!』は、激しいバトルシーンがあるにもかかわらず、泣けたり、ホッとできたりするシーンも多く、誰でも安心して読める優しさを感じられる漫画だと思いました。雷句先生がこの作品を描かれるにあたって、どんなことを意識されていらっしゃいますか。

主人公の清麿をはじめ、登場人物それぞれの家庭の日常を大切にしています。バトルだけの漫画だと、読者もひどいことに巻き込まれていく感覚になるじゃないですか。そのあたりの不快感を引きずらないように、「日常」を大切にしています。私の漫画は、バトルパートと日常パートの両方を楽しめるように作っているんですね。常に、読者が読んでいて「ホッと息抜きできる」場面を作ることを意識しています。

「やさしい王様」は子どもたちの夢

清麿のお父さんが人質にとられた後に、清麿の成長を喜ぶシーンに心を打たれました。このようなシーンも、先生のご経験によるものでしょうか。

小学生や中学生、高校生くらいって、自分の尊敬している人に褒められることは大きいと思うんですよね。確かに私もその年齢の頃に褒められることが多かったので、そういうことが作品に現れたのかもしれませんね。

『金色のガッシュ!! 完全版』より (c)雷句誠/クラーケンコミックス

『金色のガッシュ!!』で、清麿とガッシュは「やさしい王様」をめざしますが、バトルと究極にある「優しさ」をテーマにしたのはなぜでしょうか?

私が『金色のガッシュ!!』を描くときに常に心がけてきたことは、漫画を読んだ子どもが、「ガッシュと友達になりたい」「清麿と友達になりたい」と思ってくれるかどうかということです。それがこの漫画の一番のテーマであり、大切な部分です。
読者が友達になりたいと思うキャラクター、清麿やガッシュがめざすものということで、自然に「やさしい王様」になりました。大人が見れば、「やさしい王様」なんてとてつもなく難しいことですが、子どもの夢であってほしいという強い思いがあります。

いじめがあったり、強い子がいたり、気の弱い子がいたり、『金色のガッシュ!!』自体が、世の中の縮図のようにも感じました。

さまざまな悪役、いい仲間などのキャラクターを考えるうえで、自然に耳に入ってくるニュースなどは意識しました。

読者は、子どものときに『金色のガッシュ!!』を読んでくれていた大人

今日のイベントには、年代、性別を超えて、本当にたくさんのファンの皆さんが参加されていましたね。

『金色のガッシュ!!』が終わって今日まで約10年です。その間にもサイン会などの機会はありましたが、連載当時読んでいた子たちは大人になってきているんですね。「小学生の時に『金色のガッシュ!!』を読んでいましたが、今年社会人になりました」というファンレターをもらうと、多少ショックは受けますが......。だから、『金色のガッシュ!! 完全版』の読者は、子どものときに『金色のガッシュ!!』を読んでくれていた大人を想定しています。完全版なので、カラーページも入れたいから、昔のコミックスに比べるとどうしても割高になってしまいます。
でも今、この漫画を求めている人たちは、すでに働き始めているでしょうから、昔のコミックスより多少高い価格設定でもきっと欲しいだろうと想定しています。
思った以上に、「子どもにプレゼントしたい」「自分の子どもに読ませたい」という声がありました。電子書籍で読ませたくても、スマホやタブレットをずっと子どもに貸しておくわけにはいかないからというのです。

親が安心して与えられる漫画だと評価されているということですね。

もしそう思ってくれているなら、とてもうれしいですね。

弱かったり、ハンデを負ったりしても頑張っている姿描きたい

ネット上でも話題になっていますが、『金色のガッシュ!! 完全版』の目玉のひとつに魔物の子ども同士が対談する「ガッシュカフェ」があります。どうやって、魔物の子どもの組み合わせ、会話する内容を決めたのですか?

『金色のガッシュ!!』は、魔物の子どもたちが物語の途中でどんどん退場していきます。その子たちがもし生き残っていたら、あの魔物と仲良くさせたかったなぁ、悪の魔物同士でこんな話をさせたかったなぁなどと考えました。ガッシュのライバルだったキャラクターが、強敵と闘ってさらに強くなって帰って来ても、どうやって闘ったのかなどのエピソードは、回想シーンでの2、3コマです。そういう部分も掘り下げたいと思いました。第1回の"ゴフレ"は、このカフェのおもしろさを表すために選びました。

雷句先生のお気に入りの魔物を教えてください。

優劣つけがたいというか、どの魔物もみんな好きなんですよ。先ほど、トークショーでも話しましたが、私は、弱い子、力的にハンデを負っている子ががんばっている姿をつい描きたくなってしまうので、そういう意味で、弱い魔物に分類される"キャンチョメ""キッド"などに、特に感情移入してしまいました。"パピプリオ"というとても弱い変化球的なキャラは、不器用なかわいさがあることもあって、最後まで出番が多かったですね。
なかには、どうしようもない「悪」もいますが、それでも愛を送っています。"ゾフィス"という魔物はかなり悪く描いていますが、最後には"ブラゴ"にこっぴどく怒られるシーンがあります。そのことによって、"ゾフィス"の友達になってくれるファンがひとりかふたりくらいは増えたと想像しています。"ゾフィス"の性格は変わらなくても、読者の好感度はわずかに上がったのではないでしょうか。もちろん、悪い"ゾフィス"が大好きというファンが一定数いるように、私自身も悪いキャラに愛着をもっていますよ。

『金色のガッシュ!! 完全版』第1巻より、描き下ろしの短編マンガ「ガッシュカフェ」 (c)雷句誠/クラーケンコミックス

紙書籍を作ったのは、「手元に残したい」メディアだから

ファンの人たちは、キャラクターに自分の姿を投影しているのかもしれませんね。今回、紙書籍の『金色のガッシュ!! 完全版』を発売されましたが、電子書籍と紙書籍の違いはどのようなことだと思われますか?

最初に電子書籍で完全版を作ったのは、色褪せずにずっと残ってくれるからです。カラーページはそのまま見せたいですからね。『金色のガッシュ!!』をずっと愛してくれている人のために、「完全版」として形を残したいという気持ちがとても強くありました。
私も含めて、本好きな人は誰もがそうだと思うのですが、紙書籍は、「手元に残したい」メディアなのです。もちろん紙書籍は、電子書籍に比べて、さまざまな会社、人の協力を得るために、私もたくさん動かなくてはいけないなどハードルは高いですが、それでも、求めてくれている人には届けたいアイテムです。

再アニメ化を希望するファンもいるようです。

アニメの制作にはかなりの費用が必要になります。お金がたまったら、東映アニメさんに相談しようかなとも考えているのですが、なかなか厳しそうですね。

ピカソの絵の良さも理解できる年齢になったけれど、やっぱり僕は漫画家

紙書籍版の『金色のガッシュ!! 完全版』には初版特典で描き下ろしのキラキラシールが同梱 (c)雷句誠/クラーケンコミックス

作品から少し離れますが、雷句先生が『金色のガッシュ!!』を描くにあたって影響を受けた漫画家さんはいますか?

中学生で漫画家をめざそうと思ってからガッシュを描き始めるまでの時間、いろいろな漫画家さんのいいところを勉強してきましたから、誰かひとりの、例え5 人に絞ったとしても、お名前をあげると誤解が生まれてしまいそうです。もちろん、漫画だけではなく、映画や小説からも影響を受けています。

雷句先生は、中学生のときに画家か漫画家かどちらをめざすか迷った末、漫画家の道に進まれたと聞きました。

小さいころから、絵は得意でしたし、先生にも褒められることがあったので、将来は絵で食べていけたらいいなとぼんやり思っていました。いろいろインタビューでお話ししていますが、当時はピカソのような抽象画よりも、下敷きなどの文房具に描かれているアニメのキャラの絵に価値を感じていましたからね。

そこに後悔はないですか? もしかしたら雷句先生はピカソのように偉大な画家になっていたかもしれませんよ。

もちろんです。この年代になってくると、ピカソの絵の良さもわかってくるので、あちらの道も素晴らしいことはわかっているんですけどね。でも、やっぱり僕は漫画の方がいいです。

「漫画を描かないと生きていけない」人にこそ、漫画家をめざしてほしい

紙書籍版の『金色のガッシュ!! 完全版』は裏表紙にも魔物の子とパートナーの描き下ろしイラストが (c)雷句誠/クラーケンコミックス

雷句先生のような漫画家になりたいという若者も少なくないと思います。彼らに何かアドバイスをお願いできますか?

出版業自体が厳しくなっていることもあって、漫画家という職業も、今後ますます厳しくなっていくでしょう。だから「漫画を描かないと生きていけない」人が漫画家になった方がいいのではないかと思います。

「漫画を描かないと生きていけない」人ですか?

他の仕事に就いても人生が全然楽しくない。でも漫画にだったらいくらでも向き合っていける。漫画だったらがんばれる人です。漫画家だけでなく、音楽家という職業も同様で、音楽に関わっていないと生きていけないという人なのだと思います。漫画家にしても音楽家にしても、努力だけでは食っていけませんから、自分をちゃんと知って見極めておかないと。
もし将来、好きな人ができて、結婚して、子どもが生まれて、家族を養っていかなくてはいけないというときに、漫画で食べていけないのは苦しいじゃないですか。それを考えると、漫画を描かないと生きていけないくらいの人じゃないと厳しいと思うんです。どうせなら後悔してほしくないですから。

厳しい世界なのですね。

夢をめざしている人に対して言うには現実的すぎてちょっと嫌なんですけどね。もし、真面目に進路を考えるならば、漫画家になればお金が稼げるみたいなジャパニーズドリームを思い描いてアタックするとひどい目に遭ってしまうのではないかと思います。もちろん、お金を目標にしても全然かまわないし、実際にそれで成功した人もたくさんいます。でも、実際に厳しい世界であることは間違いありませんから、ぜひそれを理解したうえで飛び込んでほしいですね。

最後に、この記事を読んでくれている人にメッセージをお願いします。

『金色のガッシュ!! 完全版』は、ずっとガッシュを好きでいてくれた読者に恩返しするために作りました。もし実際にこの完全版を手に取って、ガッシュを買って良かったなと思ったかたは、ぜひご自分の周りにも勧めていただけたら、これ以上うれしいことはありません。

ありがとうございました。今後の作品も期待しています。

<インタビューを終えて>
トークショーでもインタビューでも、雷句氏は何度も「ファンへの恩返し」ということを繰り返していました。そのために、雷句氏は自ら多くの出版社へ直接メール、苦労の末、クラーケンコミックスから紙書籍版『金色のガッシュ!!完全版』全16巻を刊行するに至りました。そして迎えたこの日のトークショー&サイン会。
サイン会で雷句氏は、ファンの名前だけではなく、一冊ずつにキャラクターも描き添えます。まさにファンにとって夢のような一冊が出来上がりました。サインをしながらファンの質問に丁寧に答える雷句氏の姿は、読者に恩返しという言葉を体現するものだったように思います。雷句氏とファンの相思相愛の関係が作り出した『金色のガッシュ!!完全版』。ぜひたくさんの方に読んでいただきたいです。

アバウト

開催期間
2019年7月27日(土)

雷句誠トークショー&サイン会

場所
ヤフー株式会社 東京ガーデンテラス紀尾井町オフィス
東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワー 17F

主催・運営

ヤフー株式会社 オープンコラボレーションスペース「LODGE」
クラーケンコミックス